アンコール・トムの水利問題

クメールの遺跡たち

昨年,2011年はバンコクの洪水が広く日本でも報道されましたが,カンボジア,アンコール遺跡もまた例年にない異常な冠水範囲を記録しました。

浸水に伴う地盤の軟弱化により遺跡の倒壊や変状が認められた遺跡もありました。アンコール遺跡群は古代水利都市とも呼ばれるほどに,バライを始めとする大規模な水管理の施設が多数造営された都でした。ここアンコールでは乾季に備えて雨季の間に貯水することが重大事の一つであったことは確かですが,それ以上にいかに効率よく排水し都市の生活環境を維持するかということに高い関心があったように思われます。

通常ではとてもフルには活用しきれない水路や環濠,溜池が不定期におとずれる異常気象時には,きわめて重要な排水施設であったことが実感されます。

昨年の記録的な雨量は11ヶ月間で2000ミリ以上を記録しており,通常の年間降雨量1400ミリ程度を大きく上回りました。

バイヨン寺院も昨年の雨季には周囲が冠水し,あたかも湖に浮く小島のような様相を呈していました。また,アンコール・トム内は広く森が広がっているのであまり被害が目立つことはありませんでしたが,多くの地区が長期にわたり冠水しました。


うした状況の中,遺跡の保存開発を担うアプサラ機構は排水のために既存の道路を切断し,また新たに排水溝を設ける処置を施しました。アンコール・トムの北
門橋は部分的に崩壊したため,現在では鉄筋コンクリート造の架橋を構築し,また死者の門にも新たな橋を設置している最中です。

 




アンコール・トム内の排水溝は現地表面を大胆に掘り下げるもので,地中からは多数の遺物が掘り返されているのが確認される箇所も少なくありません。また,道路を切断する工事では20世紀初頭にこの道路を敷設した際に用いた遺跡の散乱石材が多数掘り返され,そのまま放置されています。

こうした排水のための対処が必要であることは確かですが,現状の対応はあまりにも場当たり的なもので,遺跡の構造的なオーセンティシティーの損失,考古学サイトの攪乱,既往修復への不用意な混乱を招いているように感じられます。

当時の都市構造と上下水の管理の在り方を検討し,将来的な研究の妨げとならない方法を慎重にデザインすることが必要です。

アンコール遺跡群では,今年4月に国際的な研究チームが共同で,世界でも考古学研究を目的とした事業としては最大級の航空測量を行いました。現在データの処理が進められているところですが,古代の水利構造の解明,そして現在の水環境の改善にあたり極めて重要なデータになることは間違いありません。

JASAでは日本からの研究者と共同で,これらのデータを利用した水利工学の研究を進めていくことを予定しています。(一)

コメント

タイトルとURLをコピーしました