バイヨン南経蔵の修復工事完了

バイヨン修復現場から

2011年7月末日をもってバイヨン南経蔵の修復工事がほぼ完了しました。

ほぼ、と加えたのは、工事完了後の図面作成、写真撮影、三次元形状計測、報告書作成、中央孔の埋め戻し、一部の新材の装飾仕上げの調整、経年変化観測のための基準点設置、といった作業が残されているためです。

こうした残りの作業は9月より開始し、今年12月に予定されている竣工式典までには完璧な状況で工事と報告が完了する見込みです。

2006年5月より修復設計や工事現場の設営が開始され、2007年1月2日に南経蔵の最初の石材が解体されてから、これまで約5年の歳月をかけて南経蔵の部分解体再構築工事が進められました。

バイヨン南経蔵は、1994年から1999年にかけて修復工事が実施された北経蔵とほぼ同規模・同形式の建物です。石積みの変位や石材の劣化状況も類似しており、基本的な修復の方針や方法は過去に実施された北経蔵の工事に準じたものでした。とはいえ、基壇内部の版築土の構成や、基壇内部に発見された入れ子状のラテライト構造体等は、南北の両経蔵で異なるものであり、また上部石積みに遺失部材が多いといった特徴もありました。

さらに、北経蔵の修復工事が10年を経た段階で、石目地の充填材等における弱点も認められ、新たな材料開発への取り組みもありました。

版築土の配合の改良や、充填材の開発、また基壇の内部構造の解明にあたっての考古学的研究においては、日本人専門家による研究、試験や解析が重要な役割を果たしました。

しかしながら、南経蔵におけるもっとも大きな挑戦は、一連の工程を現地スタッフによって取り組み完成させたことに他ならず、この点において大きな成功を達成したと考えています。また、現場での技能員を統括するカンボジア人専門家が協調体制を築いて工事にあたり、全ての作業をまっとうしたことも大きな成果といえるでしょう。

この5年の間には、南経蔵の修復工事の他に、中央塔の構造安定化のための研究、浮き彫りの石材保存のための研究、バイヨン内外の考古学的発掘調査が科学研究費等の事業との連携のもとに実施された他、コー・ケー遺跡群やベン・メアレア遺跡群の建築学的研究やサンボー・プレイ・クック遺跡群の保全活動も連携的に進められました。

こうした遺跡の保存修復や研究に加えて、こうした活動の広報事業への取り組みは大きな展開となりました。バイヨン・インフォメーション・センターの開館はその一つの契機となりましたが、それ以上に、観光で訪れた沢山の方々が遺跡の修復現場を見学され、修復工事そのものについて知っていただき、修復という事業を通じて歴史的な価値を見直すばかりでなく、今に生きる人々がどのように遺跡と関わっているのか、様々な側面にふれれくださったことは、この事業に新たな意義をもたらしました。

JSTのメンバーに加えて、こうした活動に新たに多くの方々が関わり、協力いただいていることは、遺跡修復に関連して、地域生活や教育の改善という社会的側面に大きな可能性があることを良く示していると思います。

バイヨン南経蔵の修復工事は、多くの方々のご協力のもとに完了にこぎつけることができました。心より感謝いたします。そして、第四期目の事業においても、挑戦のターゲットを新たに掲げて前進していきたいと思っています。「慈愛の寺院-バイヨン」がこれからも多くの方と共にありますよう。

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8月2日にオフィスのホールにて、工事(ほぼ)竣工の祝典を設けました。常設の展示を取り外し、現地スタッフにて工事完了のお祝いです。下の写真は始まりの場面。最終的には、漆黒の闇が濃くなる中いつものようにグルグルと踊って・・・中盤以降の写真は掲載しません。ご想像にお任せします。(一)

コメント

  1. KAWASE_Katsuhiko より:

    おめでとうございます。皆様の努力とチームワークが,無事最高の結果になられたことをお喜び申し上げます。これからも,より持続可能な継続性を目指しての事業の確立をお祈り申し上げます。

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