保存科学班ワークショップ開催

バイヨン修復現場から

例年8~9月は日本からたくさんの調査隊がやってきます。今年もまた様々な修復や調査チームが来ていますが,今回はその中でもバイヨン寺院の回廊に彫刻された「浮き彫りの保存研究グループ」の活動について紹介します。

 

この研究グループは沢田正昭先生(日本修復科学会会長・国士舘大学教授)率いる,保存科学を専門としたチームで,3年前より文部科学省科学研究費の採択を受け研究を開始しました。

 

バイヨン寺院の浮き彫りは,神話や伝説,そして当時の日常生活や戦闘の場面が,内外二重の計900mにおよぶ回廊の壁面に描かれたもので,当時の宗教観や精神世界を知るために極めて貴重な痕跡です。

この回廊のうち,特に内回廊の石材に彫り込まれた浮き彫りの劣化が深刻です。

 

石材の劣化は様々な原因によって進行するものと考えられていますが,この問題に取り組むために,保存科学の他,岩石学や生物学などの研究があわせて進められています。また,劣化のメカニズムの解明とあわせて,劣化の進行を抑え,保存するための方法について研究が行われています。

 

石材表面の様々な着生物の除去,劣化した石材の強化,破損した石材の修復方法の開発に取り組まれていますが,一年を通して高温多湿,という熱帯雨林の環境下において,石材を解体することなく現場でこれらの処置を完了することが技術的に大きな課題となっています。

 

この度9月3日に,これまでの研究成果と保存科学の基本的な調査の方法などをカンボジア人の修復専門家に指導するワークショップが行われました。実体顕微鏡や偏光顕微鏡で劣化した石材や表面の生物を観察したり,石材表面の温度を観測するための赤外線カメラの使用方法について紹介したり,石材強化剤の使用方法やメカニズムの講習をしたりと,いろいろな機材や材料に触れる機会となりました。

様々なモノや機器を〈覗いたり・触ったり・嗅いだり・叩いたり〉する五感をフルに活用して保存のための調査や技術が開発される場にちょっと立ち会うことができたように思えました。

 

また,筑波大学の松井敏也先生からは,出土した考古学遺物を迅速に保存処置するために最近開発された「遺物保存救急箱」の実演をいただきました。発掘調査で出土した木材,金属,土器など様々な遺物の予備的な保存処置を可能とする便利箱です。


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