2010年夏調査を終えて・・・カンボジア国民の遺跡に対する認識調査

バイヨン修復現場から

国士舘大学大学院 文化遺産マネージメント分野 朴東煕

何か大きく感動を受けた人はその感動を他の人にも伝えたいものだ。

2年前、アンコール遺跡で大きく感動を受けたことがある。アンコール・ワット(Angkor Wat)から北東に約15km ぐらい離れたプノム・ボック(Phnom Bok)という小さな寺院でのことであった。そのとき受けた感動は自分がまるで美しい絵の中に入っているような錯覚まで起こすほどであった。そしてこの気持ちを他の人、もっと多くの人に伝えたい欲望、いや義務感を感じた。自分に何ができるかは分からないが、頑張ってみることに決心した。




アンコール遺跡群 プノム・ボック寺院

  今の私は「遺跡保存」という分野でその方法を探している。2年間勉強したが、「これが遺跡の保存である。」という解答はまだ見えてきてない。ただ、感じるのは遺跡保存には多様な要素が複雑に絡まっているということ。学術分野だけでも歴史学・考古学・建築学・美術史学・保存科学・民俗学・岩石学・生物学などが複合的に連係しているし、学術分野以外に観光・政治・宗教・哲学・地域社会などが尖鋭に対立している。遺跡を保存するためにはどれ一つ見逃してはいけない。

 

 ただし、遺跡の保存にあってもっとも基本になるのは人々の関心ではないかと思う。

 遺跡に関する関心。果たして一般人々はどの程度興味を持っているだろうか。どのぐらいの頻度で遺跡を訪れているだろうか。このような疑問に関する調査がタイで行われた事例がある( 高田真希、「タイにおける文化財の社会的役割に関する研究」、修士論文、筑波大学大学院芸術研究科、2005) 調査結果、バンコクの場合78%で、5人のうち4人は遺跡に興味は持っていた。これは相当に高い数値である。しかし、実質的な遺跡訪問頻度は平均1で年に1回にも至っていなかった。

 

 カンボジアの人は遺跡にどのぐらいの関心を持っているか。この疑問に対してアンケート調査を実施した。その結果は相当に意外であった。100人のアンケート調査の結果97%関心がある」を選択したのである。このような結果は遺跡への関心だけに止まらず、実際の訪問回数でも現れた。アンコール遺跡が位置している Siem-Reapの場合は50%以上の人が1年に10回以上遺跡に訪れているし、カンボジアの首都であるPhnompenh50%の人が1年に2回以上訪れたという結果が得られた。この数値はタイと比べて相当に高く、他の国と比較しても例を見ないほどの高い数値であろう。このように人々が遺跡に高く関心を持っていればきっと遺跡の保存の未来も明るいはずである。

 

 それ以外にも遺跡の価値に関する認識調査、文化に関する認識調査を行った。その結果カンボジア人は遺跡の意味を歴史・観光・誇り・教育など多様な範囲にわたって認識していた。(アンケート調査に関する詳しい内容は「朴東煕、()アンコール遺跡の保存と活用、国士舘大学大学院修士論文、 2011; 発表予定」を期待して下さい)

 

  今回の調査結果は個人的には予想し得なかった結果であったが、私にとって満足できる結果であった。このような遺跡への高い関心と理解があればアンコール遺跡の保存も近い将来にカンボジア人の手で行われることだろう。(P)

 

 

(P) 筆者紹介 : 朴東煕, 1984年生まれ、韓国・プサン出身、韓国伝統文化学校で保存科学を専攻し、 2009年から国士舘大学・文化遺産マネージメント分野修士課程に在学中、2008 7月から7ヶ月間JASAのインターンを切欠にカンボジアとの縁が始まった。

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