プレアヴィヘア州のクメール遺跡調査 初日

クメールの遺跡たち

2008年,カンボジア第二のユネスコ世界遺産としてプレア・ヴィヘア寺院が登録されました。それ以降,この寺院の所属をめぐってカンボジアとタイとの間で国境問題が生じ,軍事的な緊張関係が続いています。

このプレア・ヴィヘア寺院が位置するプレア・ヴィヘア州には,その他にも多数のクメール遺跡が散在しており,そのいくらかは比較的規模が大きなものです。プレア・ヴィヘア寺院のアンコール帝国における地方拠点としての性格を理解する上で,それらの周辺遺跡を丹念に調査することは重要な意義をもっていると考えられます。

1930年代にフランス人考古学者アンリ・パルマンティエは「クメールの古典芸術」と題する文献で,カンボジア東北地区の寺院を多数紹介しています。彼は,アンコール遺跡を中心としてカンボジアを四象限に分けて,それぞれの地区を一冊の書物としてまとめることを計画していましたが,残念ながら第一巻となる東北地区の遺跡を整理したところで研究生涯の幕を閉じました。

しかしながら,カンボジアを中心に東南アジア・南アジアの古建築を網羅的に調査したこの考古学者をもってして,その第一巻にこの東北地区が選ばれたのは,この地区が最も重要な遺跡が集中していると判断されたためで,それだけにこのカンボジア東北地区は注目される地域だといえるでしょう。

今回は,調査日程がきわめて限られていることもあり,プレアヴィヘア州でもチョアム・クサン(Cham Ksan)町から足を伸ばすことができる範囲での調査を行いました。調査は,ビタロン(文化芸術省),ロバート(JASA),石塚(早稲田大学学生),下田の4名にて行いました。

初日の行程は以下の通り

7:00 シェムリアップ発 アンロン・ヴェン経由にて

11:30 チェアム・クサン着 (途中CMACの事務所2カ所にて情報収集)

12:30 昼食後 チェアム・クサン発 近くの村での聞き込み・車と徒歩50分を経て

14:20 Neak Buos寺院に着 3時間遺跡内の調査

17:20 Neak Buos発

18:10 チェアム・クサン着 ゲストハウス泊

シェムリアップからアンロン・ヴェンまでは舗装路で,その後のプレア・ヴィヘア寺院への分岐点までの道は整備中ながらも80キロくらいは出せる道が続きます。分岐点からチョアム・クサンまでも現在整備中で,やや悪路になり土煙を巻き上げての疾走となりますが,比較的良好な道で,さほど苦労することなくチェアム・クサンまでは訪れることができます。

01.JPGチェアム・クサンには見た限り2軒のゲストハウスがあり,田舎町にしては清潔で居心地の良いもので,また食事どころも多少はありますので(しかし全日同じ食堂で毎晩〈火山〉を食しました・・・),それほど大がかりな装備は必要ありません。

今日訪れた「Neak Buos寺院」は,この地区でも最も大きな複合寺院です。比較的良好な状態で保存されており、最近では文化芸術局の管理によって数名の地元住民が草刈りなどを開始しました。ダンレック山脈の南の麓の傾斜地にほぼ南面するように立地しています。

七世紀中葉の様式のリンテルも認められるため,長期間にわたって維持され増築されたものと思われます。寺院前方には大きな溜池が配され,参道沿いにはいわゆる〈宮殿〉や〈施療院〉と呼ばれている施設があります。今回は地雷の危険があり,訪れることができませんでしたが,境内の背後,山の中腹にも煉瓦造祠堂が配されているようで,一連の寺院施設であると考えられます。(一)

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