ベンメアレア 環壕とバライ

クメールの遺跡たち

雨季ですので,大したことはできないのですが,ベンメアレア寺院の環壕とその東側のバライの調査を少しだけ行いました。

 

観光客は一般的にベンメアレアの南側の参道からアクセスします。ベンメアレアの環壕の南辺は水をたたえ,ハスが一面に咲き誇り,実に美しい入り口となっています。

この反対側,北側の環壕の痕跡は不明瞭です。ベンメアレア川が西から東へとメアンダリングしながら流れており,これが環壕の代わりをなしているようでもありますが,詳細は今のところ不明です。また,観光客で賑わう南門と打ってかわった景色を北門では見ることができます。こちらは門と最外郭の参道とがこのベンメアレア川によって分断されていますが,雨が降ろうものなら,砂岩の露頭上を激しく水が流れます。地元の人たちは良くここで水遊びをしているようで,近づくと甲高い子供達の声が聞こえてきます。


 

南辺の環壕は,その西端付近がもっとも低いようで,そこから南方へと環壕の高さを水位が超えると流水が生じます。その付近に,ラテライト列や砂岩材が散乱しており,もしかしたら南側へと水を抜くための水路があったことも推測されるところです。

一方,前述のように,北辺は東へと水が流れています。また,東辺はその北側においては環壕の存在は不確かですが,北へと水が流れていることは確かです。


このように,ベンメアレアの敷地はある一方向に傾斜しているわけではなく,周囲から微妙に高い土地に位置しているようです。

 

環壕を横断している参道はラテライト造ですが,東門に確認される限りでは,参道下は迫り出し式で積み上げられており,少なくとも,元々は水が参道の下を流れるようになっていたようです(現状では,西門では水が流れている形跡はありません)。そうしたことから,おそらく自然流を利用した北辺の他の三辺でも環壕は水の流れがあったものと考えられます。しかし,不思議なのは,この環壕の水がどこからやってくるのか,ということです。


 

この問題はバライにも同様です。

バライはその西辺に大型のテラスを備えており,また南側と東側には付属の寺院施設を配しています。中央はまだ確認できていませんが,既往の文献によれば,プラサート・プティと呼ばれる遺構があるとされています。四方を囲繞する土手は,北・西・南辺を確認した限りではかなり背の高い土堤です。バライの北側にはベンメアレアの北辺となっている川が流れていますが,これがバライに引き込まれているか否かは今のところ確認されていません。ただ,目視による限りにおいては,川の水位は土堤よりもかなり低く,バライ内の池底のレヴェルよりも低いようなので,これを引き込むのは難しいように思われます。

 

これだけ背の高い土手を周囲に巡らせているわけですから,その貯水量は相当な量が期待されるところで,あわせて入水のキャッチメントエリアもかなり広かったことが推測されるところではありますが,今のところ,その取水のための水門や水源は定かではありません。北にはクーレン山が横たわっており,その南裾にベンメアレアが位置していることを考えると,北側の高みからなんらかの水流があったことが推測されるところではありますが,実際にはベンメアレア東側の河川は北東に流れて,やや離れた王道上かかる大橋スピアン・タ・オンにて南方へと流路を変えていますので,この推測もまたあまり正しそうにありません。


 

こうしたベンメアレアでのバライの入水と同様の問題が,コー・ケーの貯水池ラハールにもあります。ラハールはこれまで南辺を除く三辺に土手が築かれているものと考えられてきましたが,南側にも土手があるらしいことが確認されつつあります。全体として南から北へと勾配を有するラハール周辺においては,入水は南側の緩い丘陵地側からやってくるものと考えられますが,土手が南側にあるとなれば,どこかに土手を切った水門があったことが予想されます。ベンメアレアでも同様ですが,こうした調査をする最大の障害は地雷の存在にあり,今のところどちらの遺跡でも詳細な踏査ができずにいますが,興味深い課題です。(一)

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