ボロブドゥールの修復予備調査

クメールの遺跡たち

インドネシアを代表する遺跡であるボロブドゥールは1970年代にユネスコを中心とした国際協力の下,大規模な修復工事を行いました。1983年に工事が完了してから約30年間が経ちますが,2010年のムラピ山噴火による火山灰の被害等も危惧されるところで,新たな保存処置の必要性が問われつつあります。
今年1月からドイツ政府の支援にもとづき,ユネスコは保存処置のための予備調査を開始しました。6月には2回目の予備調査が実施され,主に浮き彫りの保存処置と構造の安定性を評価する現地調査が行われました。

ボロブドゥールはバイヨンと同等の規模を有しており,世界の二大仏教遺跡として双璧をなすといっても良いでしょう。ボロブドゥールは土饅頭型のストゥーパ
であるのに対して,バイヨンは複合的な祠堂と回廊が連結されており,室内の有無によって建築形式の上では大きな違いがありますが,宗教建築としての創造上
の発露が双方の寺院には共通していることは誰しもが感じるところではないでしょうか。
ボロブドゥールに鎮座する無数の座仏像と,バイヨンに林立する尊顔塔とは,いずれも来訪者を神の遍在の中に静かに包み込み,寺院の長大な回廊を礼拝する内に深遠なる精神世界へと内向させ,最終的には天上の世界へと昇華させる大いなる器です。

過去に行われた修復工事では構造的な安定化を図るために基壇内部にRCの大掛かりな構造体を埋め込むことになりましたが,以後も1400枚にも及ぶ浮き彫りパネルには基壇背面からの漏水が認められており,埋設されたコンクリートとの関係による石材劣化が懸念されています。ボロブドゥール保存事務所では2003年より回廊の部分的な解体再構築を進めており,遮水処置は効果を上げていますが,なんらかの科学的な保存処置を実施するべきかどうか,今年から調査が開始されました。

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浮き彫り保存にあたっては,アンコール遺跡等でも実績のあるケルン大学のライセン教授夫妻とウェンドラー氏が現地調査を行いました。浮き彫り表面へのカールステンパイプによる含浸量調査・石材の含水率調査・超音波伝播速度やドリル貫入による強度試験・壁面からの水分蒸発量調査などが実施されました。ボロブドゥールは安山岩の石積みよりなっていますが,それらの石材が約8種類に大別されることも分析の結果明らかになりつつあります。


一方,遺構の構造的な安定化の評価にあたっては,モニタリングの方法や体制,データの分析方法について保存事務所の専門家から現状を共有し,また過去に実施した地盤工学的な調査結果についてもできるかぎりの資料を収集しました。保存事務所には1970年代に行われたユネスコによる修復工事の資料が大量に保管されており,それらのアーカイブやデータベースの作成も進められていますが,今回は既に報告書としてまとまったものを対象として調査を行いました。
1週間ほどの短い調査でしたが,ボロブドゥール保存事務所とジャカルタの文化省における会議にてこうした調査結果と専門家からの所見が報告されました。今後さらにこうした調査が求められるところです。
最終日にはボロブドゥールの前に設置されたステージにて,往時の寺院建立をストーリー立てた舞台が披露されました。伝統的な舞踊と現代的な演出とが織り交ぜられた完成度の高い見事な舞台で,ボロブドゥールとの別れが名残惜しくなる一時でした。(一)

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