サンボー・プレイ・クック遺跡群 修復工事開始式

コンポン・トム州,サンボー・プレイ・クック遺跡群の修復工事の資機材支援が,日本国政府とカンボジア政府合意のもとで決定されました。2010年1月22日には、その支援事業となる「The Procurement of equipment and material for restoration works of Sambor Prei Kuk monuments」の開始式が遺跡内で執り行われました。

 

サンボー・プレイ・クック遺跡群では1998年より早稲田大学建築史研究室(代表:中川武)により,研究事業が開始され,2001年からはカンボジア文化芸術省と共同で,「サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業」を継続し,遺跡群の保存・修復・文化開発に取り組んでいます。重要な保存活動としては,地元住民約15名からなるチームによって,過去10年にわたり寺院内の草刈り・危険な樹木の伐採・苑路の整備・支保工の設置を続けている他,最近では寺院の煉瓦造祠堂の室内にて破壊された台座の修理工事を行っています。

 

遺跡群内には比較的良好な状態で保存されている約60基の煉瓦造の祠堂があります。7世紀に建立された寺院として,東南アジアでこれだけまとまって保存されている遺跡は他に例がなく,歴史的価値は計り知れないものがあります。

煉瓦造の祠堂の上の草刈りは,各建物に対して年に二回は行っていますが,雨季には一ヶ月で50cm以上も草が伸びるため,このままでは草刈りを中心としたメンテナンスは永続的な仕事が求められます。また,倒壊の危険が高い建物の各所には支保工の設置も行っていますが,それでも部分的な崩壊が生じることがあります。2005年の記録的な豪雨の折りには,プラサート・イエイ・ポアン寺院内のマンダパと呼ばれている煉瓦造の祠堂が半壊する事態が起きました。これによって,祠堂内に安置されていた天蓋付の台座がひどく破損しました。この台座はプレ・アンコール期の彫刻作品の中でも最も重要な作品の一つであっただけに,その損害は甚大です。

 

こうした状況にあって,煉瓦造祠堂のより本格的な修復工事が強く望まれていました。修復工事により,寺院倒壊の危険性を確実に減らすことができ,また煉瓦積みの隙間に根付く草が少なくなるために,各建物に要するメンテナンスの仕事が軽減されるため,より多くの遺構をメンテナンスの対象にできるようになります。

 

2009年にカンボジア文化芸術省から日本政府へ申請された修復資機材の支援要求が受理されるに至り,修復工事に必要な足場・単管・発電機・空気圧搾機・煉瓦や石材加工のための各種機材と車両,そして,煉瓦・砂・石灰・石材・接着剤・セメントなどの資材の調達が可能となりました。

 

既に資機材の一部が調達され,プラサート・サンボー寺院の中央祠堂と中央テラスの修復工事が開始されています。修復工事のスタッフの人件費や,車両や発電機などの燃料代,各種消耗品の購入費,そして工事中も継続しなければならないメンテナンス作業のための予算は,「文化財保護研究助成振興財団」と「住友財団」からの御支援によって進められています。

 

1月22日には,文化芸術省,アンコール保全事務所,州政府,地元住民,高校生など計200名の参加者を招き,プラサート・サンボー寺院の境内にて修復工事の開始式を行いました。(一)

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