現在JSAでは、シェムリアップのJASA事務所内に、バイヨン寺院を対象とした展示ホールを設置する準備を進めています。
その一環で、バイヨン寺院の魅力の一つでもある、外回廊の浮き彫りを新しい石材で再現するというプロジェクトが進んでいます。比較的保存状態のいい外回廊。それでも、苔や地衣類の繁殖で徐々に見えにくくなっています。そこで、浮き彫りの中の代表的なものを再現することになりました。
石彫を担当するのは、JSAの現場作業員たち。日本人の石工さんから学んだ石材加工の技術と、現在のカンボジアで彫刻を生業とする人たちから学んだ彫刻の技法を駆使して、古代の職人たちの技に挑みます。
どの場面を再現するか、を検討してきたのは、修復の技術顧問である下田と、現地広報の吉川。バイヨンならではの特徴を持っていて、かつその背景に現在へとつながるストーリーのある場面を選ぶように検討を重ねました。
今週は、いよいよ石彫が佳境に入り、細かな部分での調整が必要となってきました。というのも、きれいに見える外回廊も烈火の脅威にさらされており、大まかな形は判別できても、細かな手の動きや表情、手にしている道具などはかなり掴みにくいのです。そのため、現場で作業員と情景について話し合ったり、回廊の場面を見に行ったりしながら、相談しつつ進めています。
そんなわれらに朗報がありました!
フランス極東学院(EFEO)が1930年代に撮影した、古い写真の中にまだ美しく残る外回廊の写真を見つけたのです。早速許可を得て、資料をいただき、プリントして現場へ。
作業員たちも嘆息するほど、今よりずっとはっきりと外回廊が写っています。
その中の一つに、狩りの風景がありました。現状の外回廊ではすでにすり減って確認できなかったのですが、古い写真を見ると、どうやら狩人の頭の上に何か載っているようです。そして、とんがり帽子ではないかと主張する吉川と、そんなものはかぶらないと主張する下田の間で意見が対立しました。確かに背景の木の葉とも思えるけれど、なにか気になる・・・。
写真だけでは決着がつかない。そんなときには現場100回!ということで、酷暑の中、絶対に何かかぶっている!という確信を持ちながら、外回廊の問題の現場まで吉川が走りました。
そこで見つけた、驚愕の事実!!!・・・は、
先に言っておくと、下田も吉川も間違っているわけではありませんでした。狩人は頭に被っていたのです。でもそれはとんがり帽子ではありませんでした。
狩人は、なんと、鹿の形の帽子をかぶっていたのです!野生のウシと思われる生物に、息を詰めて弓を引く狩人。その頭には、なんとりっぱな角を持ったシカの顔が・・・。息せき切って駆けもどり、下田に報告し、再度写真を確認すると、確かにシカです。こちらを見てにやりと笑っているようなシカが。
そういえば、バイヨン寺院の内回廊の彫刻にも鹿の帽子をかぶった狩人が描かれていた、と急に思い出しました。これは、間違いない!
←こちらが問題の狩人と鹿
大発見というには、実に小さなことですが、実際に自分で資料を探して、疑問を持って、現場へ走って確認して、そういう過程を踏んだ後には、それはもう素晴らしい発見でした。久しぶりに、遺跡と向き合っているな、と実感できた瞬間です。やった!
しかし、この話には続きがあり、事務所に戻って、民俗学的なことにも興味を持っているカンボジア人スタッフにこの素晴らしい発見を誇らしげに話したところ、
「ああ、鹿でしょ?ほら、伝統の踊りでもあるじゃん。昔は狩りで動物を欺くために、鹿の頭をかぶっていったんだよ。」と笑顔で返されました。がーん。
でも自分で発見するという経験が一番大事!と言い聞かせ、明日も浮き彫りと向き合います!(ま)
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