アンコールに寺院多しと言えども,その御本尊となる神像が特定されている寺院はほとんどありません。ある意味,寺院は神様を祀るための入れ物〈ハコ〉にすぎず,御本尊こそが寺院の核心であるわけですが,その核心はことごとく散逸してしまっています。
そんな中で,バイヨンは建立当初の御本尊が特定されているごく限られた寺院の一つです。バイヨン寺院の御本尊は,日本でいうところの東大寺の大仏に相当するような重要な彫像です。護国寺バイヨンの中央には,国家そのものの精神的・象徴的中核となるべく仏陀像が,当時の大王ジャヤヴァルマン七世と重ね合わされるように安置されていました。
この重要な仏陀像は,現在,アンコール・トムの王宮前広場の片隅のある小さなテラス上に安置されています。ほとんど観光客も訪れることのないプラサート・スープラの裏に,ひっそりと静かに佇んで余生を送っているのです。
私たちは,クメール帝国の核心に鎮座する国家の象徴たるこの仏陀像,あるいは等身大のレプリカを,バイヨン寺院の本殿に再安置したいと考えています。
註:このような文で注意書きが入るのもおかしいのですが,アンコールでは,一部の限られた人だけがおそらく目にすることができたであろう神像と同等,あるいはそれ以上に建築そのものが重要であった可能性も十分に考えられるでしょう。寺院は治世者にとって人心を握るための重要な装置であったわけで,だれでもが目にすることができる建築にこそ,意味と意匠とが傾注された・・・と想像するこtもできるでしょう。
コメント