バイヨン寺院 本尊仏の再安置プロジェクト その8

東大寺の大仏、そして大仏殿が幾多の災難に遭いながらも、修復・再建されてきたことはよく知られている。中でも、重源と公慶の勧進によって復興された異なる二つの時代の物語は有名である。重源には複数の協力者がいたのに対して、公慶は再建資金を集めるために全国行脚を一人で行い、7年間の苦難の末に1万両、今にすれば10億円の寄付を集めたという。

この公慶の寄付には、貧しい民衆の多くが協力したというが、そこには寄付者と大仏との間に「結縁」を得て、来世の幸福を得ようとする民衆の切なる願いがあったともいう。大仏殿の再建にあたっては、幕府も支援をしたが、大仏そのものの修復にあたっては、こうした民衆からの支援だけで全てがまかなわれた。

アンコール遺跡群の寺院もまた、人々が神仏に帰依する心によって、建立された部分が少なくなかったものとも考えられる。もちろん祭政一致の国家体制において、王がこうした寺院建立を強力に牽引したことだろうが、それだけではこれだけ大規模な事業を成し遂げることは難しかったに違いない。民衆個々の力が神の御許一つに集約されてこれだけの寺院建設が完成した。

 

現在においても、遺跡修復の規模にもなると、やはり個々人の協力に負うのは難しいといわざるを得ないが、今回の本尊仏再安置プロジェクトにおいては、個人と歴史的寺院とが縁を結ぶための機会にできたらと思う。

世界共通の財産であるアンコール遺跡の仏教寺院でもあり、日本をはじめとして海外に住む人々がこの事業に協力頂くことを切実に願うとともに、どんな小さな協力でも良いからこの寺院と共に生きる地元の人々、カンボジアの人々からの支援もまた得て、この事業が進められたら本当に意義ある事業になるだろう。

 

資金面での支援でも、現場作業の上での協力でも、なにかそうした場を設けられないだろうか。支援をされることがあまりにも一般化しているこの国でも、寺院を故郷の村に建設したりするような、特に信仰にまつわる部分では様々な奉仕の精神が生きている。そうした精神をここに持ち込むことによって、本当の意味で喜ばれるべき本尊仏再安置の落慶を迎えることができるように思う。

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