7月18日に国際司法裁判所は、プレアビヒア寺院を非武装地帯に設定し、カンボジア・タイの両国は軍部隊を撤退させるようにとの勧告をうけました。
その後、プレアビヒア寺院の安定したとの噂が聞かれるようになり、現状での情勢を確かめるために現場の視察に向かいました。
既にシェムリアップから寺院までの道は全て舗装され、3時間強で訪れることができるようになっています。遺跡手前の博物館は未だに展示物はありませんが、6月にはシェムリアップで博物館の運営に関する会議が行われており、ユネスコの担当者の話によれば今後石彫の展示物がプレアヴィヘア州の倉庫などから移動される予定であるとのこと。
今年3月、国境での衝突が再度激化する前に遺跡を訪れていましたが、遺跡からの最寄りの村は、以前より住民が増えているようで、ゲストハウスやマーケットも少しずつ充実してきているように見受けられました。
遺跡へ入る直前のダンレック山脈直前の急坂は、以前はジェットコースター並の勾配で、車の限界能力に感心させられるほどでしたが、昨年から急ピッチで新たな道路整備が進み、大きく曲がりくねりながら、より緩やかな傾斜で登れるようになってきています。おそらく3月から7月にかけては工事が中断していたものと思われますが、現在では複数の重機が工事にあたっており、近い将来寺院の参道脇まで舗装路がつながることでしょう。
寺院はこれまで以上に迷彩服に身を包んだ兵士が大勢いましたが、緊張感はなく、非武装地帯とする勧告を受けたこともあってか、誰も機関銃を肩にかけている兵士はいませんでした。3月時点では、兵士の数こそ限られていたものの、ほとんどの兵士が機関銃を持っていたこととは対照的でした。
寺院の内部には新たに塹壕が築かれ、積み上げられた土嚢袋もまだ真新しく、そうとう緊迫した雰囲気であったことを思わせるものでした。写真の撮影などは厳しくとめられましたが、こうした塹壕の中には未だに砲弾などが残されており、表向き武装解除しているものの、衝突にすぐさま対処できる状態であるのかも知れません。
寺院内でも一番下のゴープラの付近、そしてタイとのまさに国境線沿いにはこうした塹壕と、仮設の小屋が多数築かれ、ソーラーパネルやパラボラアンテナも設置され、場所によっては小さな畑に鶏が走り回るというような光景で、スグに撤退するようには見えない状況ではありました。
タイ側から観光客が入っているという噂もありましたが、実際には厳重に鉄柵がタイからの入り口を封鎖しており、カンボジア兵が双眼鏡でタイ側を監視していました。
カンボジア側からは西洋人が数名、日本人が私達の他にもう一組訪れていましたが、もうしばらく静観して情勢を見極めてから訪問すべきでしょう。
寺院そのものの被害は軽微でしたが、多少のロケット弾や銃弾の着弾痕が石積みに残されています。兵士によればロケット弾によって落石した部分があるとも報告されましたが、あったとしてもごく一部だと思われます。
また、誤射だったのかも知れませんが、カンボジア側の石積みに銃痕が残されている箇所も見られました。
寺院最奥から見渡すカンボジアの大地は、悠久の時間の流れの中で、この刹那的な出来事を蔑視しているような雄大な落ち着きを払っていました。
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