サンボー・プレイ・クック遺跡群世界遺産に向けての第一歩

本日、7月27日にプノンペンの文化芸術省において、サンボー・プレイ・クック遺跡群のユネスコ世界遺産申請書類作成のための第一回目の協議が行われました。

 

プノンペンユネスコの代表を始め、国内ユネスコ委員会のメンバー、文化芸術省関係者、プノンペンの大学教授、その他フランス極東学院の研究者や個人研究者などが集まり、登録の意向を確認し、その基本的な方向について検討しました。

アンコール遺跡、プレア・ヴィヘア遺跡に続いて、カンボジアでは三番目の世界遺産候補となります。

 

早稲田大学建築史研究室では1998年よりこの遺跡群の研究と保全を進めてきていますが、世界遺産への登録は一つの大きな念願でもありました。協議会ではこの事業を担当している下田とテリーがこれまでの活動の経緯を詳細に報告しました。他にこの遺跡でこれまで活動をしている団体がないこともあり、全体の報告は早稲田がこれまでに進めてきた活動と成果、そして既に資料化された研究や保存の記録を基軸に進められたといって良いものでした。10年以上にわたって行ってきた活動がこうしたかたちで受け入れられ、評価していただけたことは私達にとってとても感慨深いものでした。

また、カンボジア政府側で当日の発表資料を準備したのが、このサンボーの事業において長期研修プログラムを経て今でも遺跡の調査を共同で行っている人物であったことも私達にとっては嬉しいことでした。約3年間の研修プログラムに参加したのは計5名の若い大学生上がりの研修者でしたが、そのうち3名が今でもこうした研究を続け、すこしずつ確かな仕事ができるようになってきています。

 

これまで、サンボー・プレイ・クック遺跡群では、文化財保護芸術研究助成財団と住友財団からの支援のもとに活動を行ってきました。継続的な支援をいただいていることは大変ありがたいことで、そのことによって熱帯気候という過酷な環境において脆弱な煉瓦造の遺構が過去10年以上にわたり保持され、状態が改善されつつあります。

これまで1000年以上にもわたって保存されてきたのもを、たった10年保持することなんてさほど大変なことではないように思われるかもしれませんが、実際にはちょっと手を抜けば遺構はどんどんと崩れていきます。メンテナンスの仕事をするにつけ、この遺跡がこんなにも長い時間保存されて今に残っているのは奇跡としか言いようのないものだと感じられます。

 

しかしながら、こうした保存のための活動がいつまで続けられるのかという点については常に不安を抱えており、一刻も早くより安定した体制でこうした保護活動が持続できるようになることを願ってきました。

そのためには、カンボジア政府が保存のための体制を整え、そのための予算化を図ることが望ましいところでしたが、過去の交渉ではなかなかそうした方向へと歩を進めることができない状況にありました。アンコール遺跡でさえ、困難を抱えている中、それに準じる段階の遺跡を保護するなど、まだ現実味があまりないかもしれません。

しかし、世界遺産への登録は、こうした状況を打開する最も効果的な方法であり、登録されることによって国連から遺跡の保護体制に一定の水準が要求され、保存や開発状況に関して定期的なモニタリングが課せられるというのは、遺跡を保護する立場からは願ってもないことです。もちろん、様々なネガティブな影響も予想されますが、それにもまして、登録申請のプロセスは、遺跡保存の人員と予算を確保し、長期的なビジョンをもって保護体制を組織化することを、押し進める絶好の機会となります。

 

実際のところ、来年度の登録申請にはややスケジュール的に厳しさもありますが、カンボジア政府がこの遺跡群を登録の対象としたことは、私達にとってたいへん喜ばしいことです。歴史的な価値、遺跡の残存状況など登録基準を十分に満たすサイトであることについては会議における各発言においても一致するものでした。

これまで、サンボー・プレイ・クック遺跡群で活動をしてきた多くの方に、この第一歩が踏み出されたことを報告し、ささやかな喜びを分かち合えたらと思います。

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