1994年に日本国政府アンコール遺跡救済チームの事業が始まり、最初に取り組んだ修復工事が「バイヨン寺院 北経蔵」でした。5年の工期を経て、日本政府によるアンコール遺跡での初めての工事は無事に完了。1999年に竣工式を迎えました。
それから10年、修復工事後の経過を観測するための点検を、当時の修復工事に参加していた日本人専門家と現在の修復スタッフが共同で9月12日に実施しました。
1.建物全体の見え
2.砂岩新材への着生物
3.建物の変状
4.修復済み部材(組積材)
5.修復済み部材(横架材)
6.目地処理モルタル
7.目地充填改良土
8.基壇部の石目地の開きや水道
9.植物の侵食
点検の結果、修復完了から10年を経て、重大な問題は検出されず、良好な状況を保持していることが確認されました。一部の目地処理モルタルや充填用改良土では、充填量が小さい場合に、局所的にそうした充填材の剥落などの現状も認められました。また、処置を施していない石材そのものの多層剥離や、接着箇所の浮きが認められた箇所もありました。しかしながら、修復による副作用や修復材そのものの変状は認められず、石材自体の自然な劣化が進行したものでした。
遺跡の保存修復の正否は、短期的にはなかなか判断が難しいものです。アンコール遺跡群では20世紀前半より修復工事や整備事業が進められてきましたが、中には、修復工事によって遺跡の崩壊原因が新たに追加されたり、保存材料が石材に悪影響を与えて、かえって遺跡の劣化を進めてしまったこともあります。
今日、アンコール遺跡では、様々な国や機関が修復工事を進めていますが、そうした修復方法の共有化と標準仕様化が図られている一方で、いぜん、修復隊によって異なる工法が併用されています。アンコール遺跡の保全のための国際調整会議が年二回開催され、そうした保存の技術的な面についても協議がされていますが、実際にはどのような方法がベストか?というのは極めて難しい問題です。
アンコール遺跡で使用されている材料、熱帯雨林という環境、カンボジアという国において適切な修復工法、修復工事のライフサイクル、世界的な文化財に対する保存の考え方、などの様々な面を考慮すると、ベストな解答は一つではないかもしれません。
いずれにしても、重要なことは、完了した修復遺構を十分に観測し、適切な評価を与えていくことを各修復隊が積み重ねていくことにあるでしょう。ぜひ15年、20年点検と続けていきたいと考えています。
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