バンテアイ・チュマール遺跡の見学

クメールの遺跡たち

バンテアイ・チュマール遺跡はバイヨンと並行して建設・増改築をされた寺院で、バイヨン寺院の解明にあたり、最重要の比較研究対象になります。尊顔付きの塔状の建物の発展過程はこれら両寺院を併せて見ることで一連の流れが確認されますし、また回廊への浮き彫りも表現として類似していながら、題材の取り扱いや、各場面の構成はバンテアイ・チュマールの方が大胆であるなど、いろいろな点で興味が持たれます。

バイヨンはアンコール遺跡の中で他の関連遺構との関係性は埋没してしまい分かりにくい部分もありますが、バンテアイ・チュマールはその衛星寺院との関係がより明瞭に示されており、寺院相互の配置や宗教的連携を考察する上でも鍵になる可能性があります。

遺跡群中央に位置する大型伽藍は崩壊が著しく、平面図を手掛かりに歩いても自分の居所がわからなくなってしまうほどです。

現在この遺跡ではGlobal Heritage Fundによって修復工事が実施されています。中央部付近では局所的ですが、高く堆積した崩落部材を取り除き、寺院の床面までクリアランスする整備が行われています。伽藍内部の床面がこのように確認されたのは初めてのことで、この作業によって、台座やペディメントの浮き彫りが明らかになりました。バンテアイ・チュマールはバイヨン期の仏教寺院の中では唯一、後世のヒンドゥー宗派による仏教破壊活動を免れた貴重な寺院で、こうした作業によって今後重要な痕跡が見つかる可能性が高いでしょう。

また、外回廊の東面でも浮き彫り壁面の再構築が行われています。

その他、文化芸術省による独自事業として環壕南橋の乳海攪拌の巨像の修復工事も進められています。

バンテアイ・チュマールはこの中央寺院の周囲に衛星寺院やバライ、水路などが巡らされて構成されており、そうした配置や水利構造は現在研究を進めているベン・メアレア等とも比較対象として重要になっていますが、今回はメボンを除く衛星寺院を訪れました。基本的に内周衛星寺院と外周衛星寺院の二種類に分けられますが、いずれも少しずつ寺院構成や規模が異なっています。完成度は低い中で、尊顔彫刻だけは他の装飾に優先して完成されており、あたかも尊顔を高く掲げるためにこれらの寺院が配置されたようにも見えます。

都城規模の配置計画分析の可能性を検討していますが、森が深く、測量作業は困難を極めることも予想されるところで、慎重に研究計画が求められそうです。(一)

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