バイヨン・インフォメーション・センターのもう一人のスタッフ。年長のウォーリャッは、社会見学会を同じように楽しみつつ、同時に少し違う視点でこの見学会を見ていました。
それは、チェイ小学校の生徒たちから感想文が届いたときのこと。
生徒からの感想文のひとつひとつを日本語に訳してね。と頼んだ日の午後。
翻訳を担当していたウォーリャッから渡されたのはA41枚だけ。
「これだけ?」と聞くと、「この文章、先生の分も学生の分も、ほとんど内容が同じです・・・。」との返答。
カンボジアの学校では、「先生が絶対に正しくて、偉い」という根強い考え方があります。
おそらく、今回感想文を書くときに、先生が「先生はこういう感想文を書いたよ」と見本を示したのではないでしょうか。そのため、子供たちは「これがいい作文なんだ」と、それに倣って書いたのだと思われます。
ちょうどこの感想文が届く数日前に、「日本語を教える人のための作文講習会」に参加していたウォーリャッとソパリー。特に、2年間日本語学校で日本語を勉強し、日本語スピーチコンテストでの優勝歴も持つウォーリャッは、自分の経験から照らしても、ちょっとした違和感を感じたようです。
「日本の作文のやり方と、カンボジアの作文のやり方は違いますね・・・。カンボジアはまだまだです。」とため息をつく姿をみて、ちょっと思い立ち、「何か違う、という感覚を作文にしてみたら?」と課題を出しました。今日は、その結果出てきた文章をご紹介します。
☆☆☆チェイ小学校の学生の感想文について☆☆☆
『来てよかった!』というような表現が感想文で見えました。私、自分の学生だった時代の気持ちで考えたら、学校での授業だけはなんとなく勉強した内容にあまり気が付かなくて、よく分からないと感じました。日本のことわざに例えますと『百聞は一見にしかず』です。皆の感想文によりますと、説明した内容をよく理解してくれたことを感じました。子供だから黙って、熱心にやらせるよりも楽しみながらやってもらった方が効果的でいいと思います。今回の社会見学会のように子供が見たことがないことを見せたり、触らせたりして、学校と全然違う雰囲気、本当の人間の社会になじませることはこれから他の学校の学生にもやってほしいです。
『感動して泣きたいほどだ!』、『先生、これが最後のチャンスだろう!』という声が皆が書いた文章からなんとなく聞こえてきているような気がします。文章にはその時の子供の気持ちや感じた事の文が書いていなくてもクメール人同士の私は行間まで読むことができました。外国人には伝わりにくいなあと思いますが、なぜかというと私も実際に田舎の学生の世代を体験したからです。それで、ぶんしょうで子供が感じたことや表現したい気持ちを理解できるのです。
そのために今回の子供たちが書いた感想文はせっかく日本人のような世界の人々に読んでもらうので、もう少しかわいらしい子供の自己表現の作文の方がいいと思います。内容的には皆の書いた文章でいいですが、一つ一つ読んでいくとそれぞれの人のものなのに、形や言葉使いなど同じように見えるので、やっぱり決まった形の文章のとおりに書いた作文だなあと感じてしまいました。それは先生方は完璧な作文を子供に書いてほしいからと思って、かえって作文が面白くなくなりました。なぜかというと本当の子供の伝えたい気持ちが何か足りないからです。
そういうわけで 子供達に自分の好きな構成、スタイル、形、言葉などで書かせた方が
面白いのではないかと思います。しかし、感想文がこう言った欠点があるといっても、ほとんどの学生がちゃんと説明を聞いてくれて、とても嬉しいです。そして授業として教室の中だけではなく色々なことを子供に体験させることは最高な勉強だと感じ始めました。井の中の蛙のように社会のことをあまり知らないかわいそうなカンボジアの子供のためにたくさんチャンスを作ってあげたいなあと思います。
オン・ウォーリャッ
☆☆☆☆☆
作文を作ってみたら?と勧めた当初、ウォーリャッは「チェイ小学校の先生が見たら、気を悪くするかもしれない」と心配していました。しかし、大切なのは自分で気づいたことを、自分の言葉で表現すること。と伝えると気が楽になったようです。
伝統と年長者と、蓄えられた知識を重んじるカンボジアの気風は大切にしながらも、その中にキラリとひかる個性や、新しい風を吹き込んでいく。先日紹介したチャム・ランくんの感想文は、ほかの人とは違う面白い文章がありました、とウォーリャッが選んでくれたものです。
都市部の周辺では、比較的教育環境が安定してきた今、カンボジアの教育にも新しい局面が求められています。JSTの社会見学会が、子供たちにとって新たな扉を開くきっかけの体験となるように、今後も継続的に実施していきたいと思っています。
今回の社会見学会は、紀南ユネスコ協会様からのご支援によって実現しました。ご支援いただいた皆様、どうもありがとうございます。
今後もこういった子供たちに遺跡に触れる機会を提供していきたいと思っています。
(ま)
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