修復工事の完成間近にて

第三フェーズの事業も完了を間近にひかえ、バイヨン南経蔵の修復工事は残り一週間で全ての工程を終える予定です。

今日は最上層の石材の設置と、その後にクレーンに吊られて上空からの写真撮影、再構築後の部材劣化の確認と、劣化部分への強化剤の注入作業、そして足場の修正、新材の最終仕上げ、などの他、修復現場に設置していた各種機材の解体と倉庫への移動、そして倉庫の清掃と移動機材のリスト化などを行いました。

また、日本からは中・高校生のスタディーツアーがやってきて、ちょうど最後の大型部材の再構築の現場に立ち会うことになりました。

このところ、アンコールは雨が続き、空もどんよりとする日が続いていましたが、今日は久しぶりに抜けるような青空に沸き立つ入道雲。バイヨンの複雑に入り組んだ塔群の輪郭が強烈な日差しに照らし出されて、強く雄々しい石積みの表情を見せていました。

 

約70名のスタッフと共に5年間にわたり第三フェーズを進めてきましたが、9月から予定されている第四フェーズの開始の前に彼らの多くは一度解雇し、再び次フェーズの始まりと共に再雇用ということになります。事業そのものは予算規模縮小の方向で現在調整が進んでおり、それに見合った修復計画を立案しているところです。

そのため、現在仕事を共に進めているメンバー全員が再び顔を揃えて仕事ができるのかどうかは現時点では定かではありません。事業の移行期においては、現場のだれしもが、今後の計画に注目し、再び仕事に就くことができるのかどうか、そして就いた場合には、雇用条件がどうなるのかと皆ナーバスになっています。

できるだけ現状の仕事に支障をきたすことのないように、こうした話題にはふれずに、目の前の仕事にだけ集中してもらえるようにと、これまでは配慮してきましたが、今後の具体的なスケジュールや次の事業期間におけるメンバーの見通しなどについて、いよいよ今日伝えなくてはならなくなりました。

 

現場近くに最近完成した展示小屋には、みな心配して、緊張した面持ちで待ちかまえており、そこで話をすることになりました。

まだ今後の具体的な予定については定まっておらず、正確な事を伝えることは出来ない状況ではありましたが、そうした調整段階であることも含めて、また、全体としてはメンバーを縮小する可能性が高いという状況を伝えるのは、彼らの前に立つと大変難しいことを実感せずにはいられませんでした。

 

これまで、修復現場で仕事をしていると、中には隠れてさぼっていたり、どうにも手を抜いていることが明らかだったりというような作業員もおり、全体の指揮を考えてもこうしたメンバーには外れてもらった方が良いだろうと、頭に来ることもありましたが、いざ、全員を前にして、メンバーを減らして次の事業に臨むと言うことを伝える段になると、なかなかそれを口にすることはできないものでした。

 

彼らの生活環境や給与額を考えても、またこのきつい日差しの下で仕事を続けていることを思っても、真面目に毎日長時間の現場仕事を続けるのは酷であることに違いありません。

そもそも、この事業は遺跡の修復をすることを目標としていることに加えて、修復を実施するための専門家や技能員を育成することが最重要の課題としてあります。この5年間で、一通りの修復工事を彼らが実現したことによって、その目標はほぼ達成されたといっても良いでしょう。

修復工事にあたっては、様々な専門技能を要する職人が協働して作業にあたることになりますが、そうした一通りの専門工が育成されるに至っています。

 

しかしながら、彼らを受け入れるカンボジア側の体制はほとんど整備されていないといのが実状です。遺跡の観光客受け入れに要する施設や人員は整ってきましたが、遺跡を保護するための専門家や技術者を適切な条件で受け入れる体制、そのための予算、現場の人員への定期的な給与支払いや福利厚生、必要な資機材を迅速に調達する仕組み、修復のための基礎的な研究を承認する組織体制など、至る面で不十分な段階に留まっているというのが現実です。

技術移転によって育成された人材が活躍することのできる体制をいかに整えるのか、ということに、もっと真剣に取り組んでいく必要があります。

しかしこの現状に正面から向き合っている組織はありません。こうした具体的な問題が起こって、これを投げかけても、これを打開するための動きに反応する組織がないのです。第四次フェーズでは、カンボジア人による組織を自立化させることができる体制造りを現在目指して、検討を進めていますが、乗り越えなくてはならない壁は少なくありません。

 

今回修復工事が完成するバイヨン南経蔵は規模こそ小さいものですが、極めて質の高い修復工事であると誇ることが出来ると思います。と同時に、バイヨンを修復した現チームのスタッフはいずれも十分な技量を有しており、彼らこそが事業の成果そのものです。

 

この貴重な人材が、今後も適切な仕事を担うことができることを願わずにはいられません。

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