サンボー・プレイ・クック遺跡保全のためのセミナー開催

2009年3月13日,プノンペンにて早稲田大学とカンボジア文化芸術省との共催で「サンボー・プレイ・クック遺跡におけるこれまでの研究と今後の修復工事への取り組みに関するセミナー」を実施しました。

 

1998年より開始された早稲田大学によるサンボー遺跡群の「研究・保全事業の成果」と,今後予定している「修復工事計画」を関係者に報告し,今後の体制や方針を協議することが一つの大きな目的でした。

 

セミナーは朝8時から夕方5時までの丸一日におよぶもので,関係者16人からの挨拶や報告がありました。

 

セミナーは文化芸術省副大臣Som Sokunによる開幕の挨拶に始まりました。

 

続いて日本国大使館,丸山則夫公使より御挨拶をいただきました。カンボジアにおいて一際注目をあつめているアンコール遺跡群の他にも,多数の遺跡群が重要な歴史的痕跡として残されていることについて,また,そうした遺跡群は世界の共有財産ではあるが,第一義にはカンボジア自身の,また地域住民にとってかけがいのない所産であることについて強調されました。アンコール遺跡群における近年の遺跡管理の経験を十分に活かし,その上で,遺跡周辺の人々がより積極的に遺跡にコミットしていける体制・環境を整えていくことを目指したい,とのお話をいただきました。

 

オープニングセッションでは続いて,早稲田大学のサンボー遺跡保全事業の代表である中川武教授より,事業のこれまでの経過が報告され,いくつかの課題を乗り越えながらも,今後より一層の調査と保存のための活動が望まれることについて話をされました。

 

さらに,カンボジアユネスコ代表の神内照夫氏より,サンボー遺跡のユネスコ世界遺産の登録の可能性についてのお話をいただきました。現在,カンボジアでは世界遺産申請のための暫定リストに8つのサイトが登録されています。バンテアイ・チュマール,バンテアイ・プレイ・ノコール,ベン・メアレア,プレア・カーン(コンポンスヴァイ),コー・ケル,アンコール・ボレイとプノム・ダ,ウドン,そしてサンボー・プレイ・クックです。世界遺産とはどのような意義があるか,登録のための判断基準ならびに,登録までの過程についてのお話の後,サンボー・プレイ・クック遺跡が世界遺産登録の判断基準の全てをほぼ満たしているという心強いコメントをいただきました。また,2000年の世界遺産会議における「ブダペスト宣言」の中でも,特にコミュニティー・インボルブメントという視点についてサンボー・プレイ・クック遺跡には期待されることが,強調されました。今後,文化芸術省を中心として,支援団体,ユネスコとが一丸となって,世界遺産登録に向けて努力していきたい,という明確な方向性を示していただきました。

 

 

オープニングセッションに引き続き,以下の報告がありました。

 

Keo Kinal(文化芸術省遺跡保存局)からは,彼自身の修士論文のテーマでもありましたローバン・ロミアス遺跡を通じて,サンボー・プレイ・クック遺跡における20世紀初頭から始められた既往の調査についての報告がありました。また,ローバン・ロミアス寺院より出土した碑文から確認される歴史的な重要性と,それらを肉付け・検証してゆくための発掘調査を伴う実証的な調査が今後ますます必要となっていくことが指摘されました。

 

Chhang Kang(コンポントム州文化芸術局局長)からは,現在の遺跡の管理体制や様々な事業についての包括的な報告をいただきました。

 

下田一太(サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業)からは,早稲田大学による近年の調査研究の経過と主要な成果について報告がありました。特に,ここ数年のうちに進められているプラサート・サンボーにおける各種の発掘調査・1960年代に実施されたEFEOの再確認発掘調査ならびにプノンペン博物館における保管資料の調査・遺跡群周辺での発掘調査・都城区内外の表採調査などについて,概要が紹介されました。

 

Him Sophorn(サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業・コンポントム州文化芸術局文化遺産課長)からは,現状のメンテナンスの体制と内容についての報告がありました。近年進められてきた危険樹木の伐採・危険箇所へのサポートの設置・草刈り・枝払い・塔内の整備・装飾台座の修復・神像レプリカの設置,そして2008年度に実施しているプラサート・サンボー寺院内の整備作業について報告されました。

 

So Sokuntheary(サンボー・プレイ・クック遺跡群保全事業・メコン大学教授)からは,煉瓦造祠堂の倒壊の原因とメカニズム,そして現状での危険箇所について報告がありました。また,保護ゾーニング内における現状での問題点について整理されました。さらに,現在,カンボジア政府ならびに日本政府に申請中の修復工事のための資機材調達支援の状況と,今後4年間で計画している修復工事の詳細についての報告がありました。

 

Kong Bolin(文化芸術省文化財遺物局)からは,近年文化芸術省が実施した煉瓦造祠堂の修復工事について報告されました。コンポントム州のプレ・アンコール期の遺構であるプラサート・プン・プラサートとプラサート・アンデット,またカッコンのKum Chanと呼ばれるストゥーパの修復工事について,技術的な方法と問題点や課題について話がありました。煉瓦やモルタル,仕上げ材の耐久性についての研究の必要性が強調されました。

 

Ngin Hong(GTZコンポントム州代表)からは,コンポントム州全体のコミュニティーベースでの観光開発についての報告がありました。貧困解消と住民の生活向上の手法としての観光開発のあり方について,これまでのサンボー・プレイ・クック遺跡群における試みと合わせて,その可能性と課題について話をされました。GTZはこれまでサンボー遺跡群において,保全事業と共同で,ハンディ・クラフトのトレーニング,英語トレーニング,小ビジネストレーニング,ガイドのトレーニングなどを行ってきました。また州内の観光地の掘りおこしや,観光地のプロモーションを国内外の観光会社に行ってきました。今後,さらに遺跡群周辺の住民への観光開発に関連した雇用機会の促進に努めていきたいとの報告をいただきました。

 

Pheng Sytha(文化芸術省考古局副長)からは,カンボジアという地域と歴史背景に即した発掘調査について,サンボー・プレイ・クックとは異なるサイトの事例を通じて話をされました。

 

Kou Vet(文化芸術省遺跡保存局副長)からは,サンボー・プレイ・クック遺跡のゾーニング法や今後の開発のためのマスタープランの策定方法についての報告がありました。

 

コンポントム州副知事からは,州を代表して保全事業に対する感謝の意と,州当局の今後のさらなる協力について挨拶をいただきました。また,国連ボランティアとして派遣され,サンボー・プレイ・クック遺跡の近くの村で亡くなられた中田敦氏とその後のアツ村における支援など,日本とコンポントム州とのこれまでの関係についてお話しいただきました。

 

Ok Sophun(文化芸術省文化事務次官)からは,文化芸術省の文化財への取り組みについて,報告がありました。保存と開発とを進めるための,人員・対象となる文化財・博物館計画・財源・無形有形文化財の管理体制などについて概要が伝えられました。

 

これら一連の報告の後に,Him Chhem文化芸術省大臣より閉会の挨拶を迎えました。各方面への気遣いに満ちた温かい御挨拶でセミナーの幕が閉じられました。

 

*本セミナーの開催は,「文化財保護・芸術研究振興財団」ならびに「住友財団」からの支援を得て実施されました。

 

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