アンコールクラウ村を南北に貫く未舗装の”アプサラ道路”。
5年ほど前に農地が切り開かれ、大型トラックが町や遺跡を通らずにタイ国境方面やプノンペン方面へ迂回できる道として誕生しました。
ところがこの道路、毎年、雨期になるといたるところに深い穴があき、悪路と化します。
そのため、毎年道路補修がなされていましたが、今年は道幅をさらに拡張することになり、JSTがIDCJ(国際開発センター)と共同で5年かけて植えていた沿道の樹木も、一部伐採されてしまいました。
それは本当に残念なことではありましたが、もっと深刻だと思われたのは、道路拡張部分にあたってしまった村人の家屋です。
たとえば、この写真の、右側に写っている家々は、拡張部分に当たっています。
そのような家はどうなるのか?政府からは引っ越し保証金などは出るのだろうか・・・・?
このような心配をしていましたが、久しぶりにこの道路を通って、珍しいものを発見しました!
高床式住居(最初の写真の右手前から2件目)の基礎掘り起こし、柱の根元の部分に材木を渡して、柱を3本ずつ固定しているのです。
何をしているのか、家主に聞いてみると、なんと!
この家を丸ごと道路の反対側の空き地に移動する
というではないですか!
しかも、9本ある柱の下に台車を乗せてひっぱる という方法で!?
右の写真の左側に半分だけ写っている台車に、です。
ええっ?そんなことできるの?
驚いていると、「あさっての午前中、家を移動するよ」とのこと。
さっそく、その翌々日、その家を訪ねてみました。
すると・・・・・、
到着が少し遅かったようで、その”家”はすでに道路の反対側に移動しつつあるところでしたが、
“家”は建っていたときと同じ姿を保ちながら、少しずつ少しずつ、確実に動いていました。
それぞれの柱の足元は、基礎ごと車輪に噛ませて少し浮かせているのですね。なるほど!
近所の住民100名ほどが集まって、いち、にの、さんで家ごと持ち上げて乗せたそうです。
にわかには信じられませんが、カンボジアでは、皆が力を合わせると、信じられないようなことができてしまうのです!そのような現場を、建設現場や遺跡修復の現場で何度も見ているので、素直に納得しました。(でも、もう少し早く到着して、その瞬間を見たかった!)
道路を渡りきった”家”は、さらに進みます。
進行方向と反対側の屋根には、ひもが取り付けられていて、その先をたどると・・・・・。
こんな具合に村人が綱引きのように引っ張って、家が傾いて向こう側に倒れ込まないように調整しています。
道路の段差を無事に乗り越え、後は、予定地まで”家”を押すだけ。スカート姿のおばさんも手伝っています。
なんとか、到着したようです。まだ、曲がっている柱もありますが、少しずつ調整しながら安定させていきます。
こうして”家”はそのままの姿で、新たな場所で、息を吹き返したのでした。
なんともお見事!
この後は、家主が皆に食事(スープとご飯)をふるまいます。
カンボジアの農村部では、このように、隣近所で助け合い、協力しながら、家を建てたり農作業を行ったりしているのですね。
貴重な作業を見ることができたとともに、カンボジアの農民の逞しさ、底力を改めて感じた一日でした。
(よ)
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